囲碁小町 嫁入り七番勝負
7歳で知らず知らず囲碁を覚えた主人公のおりつ。いつの頃からかその強さが人々の口端にのぼるようになり、いつしか「囲碁小町」と呼ばれる。片や、御典医を務めた筧瑞伯(かけい・ずいはく)。今は惣領に家督を譲り、悠々自適の隠居生活を送る。この二人の対局で物語の幕は開く。
瑞伯の碁は、いわゆる力碁。おりつの石を仕留めようと敢然と責め立てるが、気がつけば自分の石に目がない。この対局に負けた瑞伯が江戸府内でも有数の打ち手を次々にそろえ、おりつの嫁入りを賭けて七番勝負を挑んでくる。
著者の犬飼六岐さんは執筆にあたり、日本棋院の矢代久美子先生から教示、示唆を受けたという。それは、お城碁や江戸時代の家元制度、“耳赤の一手” など、碁を打つ人でも知らないことが随所に出てくることでわかるが、なにより対局時の背筋がピンっと伸び、空気が凛(りん)と張り詰め、互いの気と気がぶつかり合う、いわばプロにしか味わえない雰囲気が書き示されていることにもよく表れている。
囲碁は手談。それは、黙々と石を打つ動作の中に対戦相手との無言の会話があるといい、打ち並べられた石たちが発する声を聞くことでもあるという。そこには一人よがりでは成り立たない会話がある。実に奥深い。
by h-fuku101 | 2013-09-06 07:10 | Comments(0)